[最終更新日]: 2025/01/14
「子供の前歯がハの字や斜めになっている」と心配する親御さんの声はよく聞かれます。ただ、前歯の永久歯がハの字や斜めに生えていることが、必ずしも異常ということではありません。多くの場合は成長とともに改善されていきます。しかし、一部では注意しなければならないケースもあります。本記事では、子供の前歯がハの字・斜めに生えていることの原因から治療法まで解説します。
なぜハの字になってしまうの?
多くの場合ハの字・斜めに生えている歯が乳歯であれば、永久歯が生えてくるタイミングで、隣にある犬歯の生え方により真っ直ぐに生える場合があります。次に、なぜ前歯がハの字・斜めに生えてしまうのか、について解説していきます。
あごが小さい
子供の前歯がハの字になっている原因には、顎の発達が十分でないことが原因の一つと考えられます。顎が小さいと歯が生えるスペースが足りず、歯がねじれたり斜めに生えたりしてしまいます。顎の骨の成長とともに解消されることもありますが、永久歯がすべて生えかわっても、顎が小さい場合は歯が並ぶスペースが確保できず、歯並びが悪いままになってしまう可能性があります。
歯が大きい
歯が大きい場合にもハの字・斜めに生えてくることがあります。顎の大きさに比べて歯が大きすぎると、歯が並ぶスペースが足りずに、永久歯がまっすぐに生えてくられなくなってしまうためです。これは、顎の発達だけでなく、歯の大きさ自体が原因となるケースです。歯が大きいと、歯が移動したり位置が改善したりするスペースが十分に確保できず、歯並びが悪くなる可能性が高まります。
生活習慣
生活習慣も原因として考えられます。例えば、指しゃぶりや舌で前歯を押す癖、口呼吸、頬杖など、日常生活での癖が挙げられます。これらの癖は、歯に継続的な力や圧力を加え、歯並びを悪化させる可能性があります。とくに、指しゃぶりや舌で前歯を押す癖は、歯を前に押し出し、前歯が突き出て生える原因となります。また、口呼吸は口周りの筋肉のバランスを崩し、顎の発育を妨げるため、歯並びによくありません。頬杖もまた、顎や歯に強い力がかかり、歯並びの乱れや顎の変形を引き起こす恐れがあります。
生え変わりのズレ
乳歯の生え変わり時期のトラブルも歯がハの字・斜めに生えてくる原因となります。乳歯が早いうちに抜けたり、永久歯が生えるタイミングが遅れたりすると歯が並ぶべきスペースが十分に確保できず、歯が密集して生えてしまうことがあります。また、乳歯が虫歯などで早期に失われると、周りの歯がそのスペースへ移動し、永久歯が生えるためのスペースが狭まってしまう可能性があります。これにより、永久歯が斜めに生えたり、歯並びが不規則になったりします。乳歯の生え変わり時期は、子供の歯並びにとって非常に重要な時期ですので、定期的な歯科検診を受けることが大切です。
前歯がハの字・斜めに生えているとよくない?
乳歯の前歯が永久歯になってもハの字のまま改善されない場合は、見た目の問題だけではなく、噛み合わせの悪化による咀嚼機能の低下、顎関節症、発音のしづらさ、さらには歯周病や虫歯のリスク増加など、様々な問題を引き起こす可能性があります。
うまく噛めなくなる
前歯がハの字になっていると、食べ物をしっかりと噛み砕く「咀嚼(そしゃく)」がしにくくなり、消化不良や肥満の原因となる可能性があります。これは、前歯の隙間が大きいために、食べ物を切り刻んだり、奥歯に送り込むことが難しいためです。また、咀嚼不足は、奥歯に過度な負担をかけ、顎関節に悪影響を及ぼす可能性があります。長期的には、顎関節症を発症し、口を開け閉めする際に痛みや音が発生するといった症状が現れることがあります。
発音がうまくできなくなる
歯並びが悪いと、歯の隙間から空気が漏れてしまい、滑舌が悪くなることがあります。特に、前歯がハの字になって隙間が大きい場合、「サ行」や「タ行」などの発音が不明瞭になり、「さしすせそ」が「はひふへほ」のように聞こえるなど、言葉が聞き取りにくくなる可能性があります。これは、歯の隙間から空気が漏れてしまい、正しい発音ができないためです。また、歯並びだけでなく、舌の癖も発音に大きく影響を与えるため、歯並びが悪い人は滑舌の悪さだけでなく、発音の仕方も気になることがあるかもしれません。
虫歯・歯周病になる恐れ
前歯がハの字になって隙間があると、歯ブラシの毛先が入り込みにくく磨き残しが生じて、歯垢が溜まりやすくなります。歯垢とは歯の表面に付着している、白色または黄白色のネバネバした物質で、1ミリグラムに1億個以上の細菌が存在しています。そのため、虫歯や歯周病のリスクが非常に高まります。自分では歯磨きを丁寧にしているつもりでも、歯並びが悪いと口腔ケアが十分に行えない可能性があるため、定期的な歯科検診を受けることをおすすめします。早期発見・早期治療が、健康な歯を保つために重要です。
口呼吸になってしまう恐れ
前歯がハの字になって隙間があると、口が閉じにくくなり、無意識のうちに口呼吸をする習慣がつきやすくなります。口呼吸になってしまうと鼻腔で空気を清浄化する機能が働かないため、ウイルスや細菌に感染しやすくなり、風邪やインフルエンザにかかりやすくなります。アレルギー症状も悪化させる可能性があります。また、口呼吸は口の中を乾燥させ、虫歯や歯周病のリスクを高めるだけでなく、いびきや睡眠の質の低下、さらには口を常に開けていることで唇の筋肉が弱まり、顔貌の発育にも悪影響を及ぼす可能性があります。
見た目
見た目の問題も深刻です。前歯がハの字になっていることが気になり、笑顔を見せることを躊躇したり、口元を手で隠す癖がついてしまったりするなど、心理的な影響が大きいことがあります。特に、成長期のお子さんであれば、周囲からの言葉の影響を受けやすく、自己肯定感が低下し、大人になってもコンプレックスとして残ってしまう可能性があります。また、大人になってからも、見た目が気になるあまり、笑顔を見せられずに自信を失ってしまう人も少なくありません。
普段の生活から気を付けること
子供の前歯がハの字・斜めに生えてきてしまった場合でも、前述のように時間経過で正常になることも多いです。しかし、歯並びを悪化させないためには普段の生活で気をつけることがありますので、以下にご紹介していきます。
舌や指で前歯を押さない
舌で歯を触る癖は、舌突出癖(ぜつとっしゅつへき)と呼ばれ、歯並びを悪化させる原因のひとつです。舌で歯を押す場所によって、出っ歯、受け口、開咬など、様々な歯並びの問題を引き起こす可能性があります。歯並びは、一度悪くなってしまうと、元の状態に戻すのが難しいため、早期の改善が大切です。特に、成長期の子供は歯並びが変わりやすい時期であるため、舌で歯を触る癖を早期に改善することで、美しい歯並びを保つことができます。子供が舌で歯を触る癖がある場合は、注意して見守り、正しい口の使い方を指導することが重要です。
指しゃぶりをやめさせる
指しゃぶりは、特に3歳を過ぎた頃から歯並びに悪影響を及ぼし始めます。前歯がハの字になる他、指をしゃぶる力によって、上の前歯が前に出てしまう上顎前突(出っ歯)になったり、上あごの歯並びが狭くなる狭窄歯列弓(きょうさくしれつきゅう)になったりします。また、上下の前歯に隙間ができてしまう開咬を引き起こし、口呼吸や舌癖を誘発する可能性もあります。さらに、口元が突き出て、顔貌にも変化が現れることがあります。永久歯に生え変わる5~6歳頃まで指しゃぶりが続くと、これらの問題がより深刻化し、矯正治療が必要になるケースも少なくありません。
デンタルフロスを活用
前述のように子供の前歯がハの字・斜めに生えてきてしまった場合、歯ブラシが届きにくくなり、虫歯や歯周病の原因となってしまいます。磨き残しを予防するためには、歯ブラシ以外にもデンタルフロスを使用して、隙間をしっかり磨きましょう。
前歯がハの字・斜めに生えてきた場合の治療
前歯がハの字・斜めに生えてきた場合、後から生えてくる歯により時間経過とともにまっすぐになることも多いです。しかし、生え方によっては、まっすぐにならず、そのまま成長する場合もあります。そのようなケースでは歯列矯正治療が必要になります。以下に矯正治療の種類をご紹介します。
ワイヤー矯正
ワイヤー矯正は、歯にブラケットという装置を接着し、ワイヤーでつなぐことで歯を移動させる、最も一般的な歯列矯正の方法です。様々な歯並びの治療に対応できるというメリットがある一方で、金属のブラケットが目立つことがデメリットとして挙げられます。しかし、近年ではセラミック製の白いブラケットや透明なワイヤーなど、審美性に優れた素材も登場しており、見た目を気にせずに矯正治療を受けることができます。
マウスピース矯正
マウスピース矯正は、透明なマウスピースを装着することで、歯を少しずつ移動させながら歯並びを整える矯正方法です。ワイヤー矯正に比べて、痛みや違和感が少なく、日常生活に支障が少ないため、周囲に気付かれにくい特徴があります。また、マウスピースは取り外しができるため、食事や歯磨きがしやすく、口腔衛生管理も容易です。
前歯だけなら部分矯正
前歯だけを治したいなら部分矯正も選択肢のひとつです。歯全体を動かす必要がないため、費用を抑えられ、治療期間も短縮できます。他の歯に問題がなければ、部分矯正ができるか歯科クリニックで相談してみましょう。
歯並びが気になったら早めに相談を
子供の前歯がハの字・斜めに生えていると、見た目だけではなく、発音や噛み合わせにも影響が出る可能性があります。成長過程で自然に治る場合もありますが、気になる場合は早めに歯科クリニックに相談しましょう。